CiDER Symposium

【 第1部 | 講演会 】


大竹 文雄(大阪大学 感染症総合教育研究拠点 副拠点長)
「2類相当と5類はどう違う」

  ・これまでは ”新型インフルエンザ等感染症“ という分類の中で、行動制限などの2類感染症に近い対策がとられてきました。さらに新型インフルエンザ等対策特措法の対象となり、感染者自身だけでなく濃厚接触者や健康な人にも私権を制限することができました。
・オミクロン株への移行に伴い感染症の ”深刻さ” が変化し、基本的人権を制限するほどの病気ではないと判断されたため、5類への移行が決定されました。科学的エビデンスを提供するのは専門家ですが、提供された情報をもとに何を重視するかを決定するのは国民の皆さんです。


忽那 賢志(大阪大学 感染制御学 教授)
「医療現場・職場での感染症対策 これまでとこれから」

  ・医療機関や高齢者施設では引き続きマスクの着用をお願いしていますが、これは年齢が高くなるほど既感染率が低かったり、重症化しやすい方が多くいるためです。
・5類移行後、定点把握になり現時点での感染者数が1週間ほど遅れて発表されるようになりましたが、ある程度リアルタイムで公表されているものもあります。
・検査や入院費が公費でなくなり、受診控えから重症化する人が増えることが懸念されています。重症化リスクの高い人はこれからも定期的なワクチン接種を。また、今後も流行状況に応じてメリハリをもった感染対策をとっていく必要があります。

友川 幸(信州大学 教育学部 准教授)
「学校での感染症対策 これまでとこれから」

  ・5類移行に伴い家庭での健康観察、施設内の消毒、感染保護シート、給食時の黙食等が廃止されました。子どもの感染症の増加、体調不良時の受診控え等がおこっていますが、子どもたちが生き生きと生活できるようになったとの声も聞かれます。
・現在、マスク着用は原則求めていませんが、状況に応じてあるいは基礎疾患等を持つ個人に応じて着用が推奨されています。体育の授業等ではマスクを外すことが推奨されていますが、小学校の高学年以上では長年のマスク生活からマスクを外せないことが問題になっています。
・コロナ禍を通して、子どもたちの視力・体力の低下やメンタル不調等がおこっています。一方で、自分の健康や感染対策への意識が高まったり、教育のICT化が推進される等の良い面もありました。


佐久間 篤(東北大学 精神神経学分野 助教)
「ポストコロナに必要となる職場・学校でのメンタルヘルス対策」

  ・災害後は抑うつ的な時期から盛り上がる時期を経て、復興に向かう時期にメンタルヘルスが悪化する方がいます。それは、被災者だけでなく、医療従事者や教育関係者、自治体職員等の ”支援者” も大きな影響をうけます。
・コロナ禍を災害としてとらえた場合、世界的に影響を与えた点、健康だけでなく社会的な影響を与えた点、ソーシャルディスタンスによる孤立や差別、終わりが見えない点などが特徴です。
・平時から職場のコミュニケーションの改善や継続的にケアできる体制を構築しておけば、災害時にはそれを拡充することで対応できます。
・リスクに対する許容度は個人差が大きく、社会が変化する中で一部取り残される人がいることを忘れてはいけません。


【 第2部 | パネルディスカッション 】


Q & A

  Q.医療機関、高齢者施設、オフィスでの感染対策において継続すべきもの、止めて良いものは?

忽那

:ドアノブやエレベーターのボタンなどの環境面の消毒は必要ありません。手洗いは感染症全般に有効ですので続けたほうがよいと思います。

正木

:ソーシャルディスタンスよりも、”膝詰め談判” が重要です。イノベーションや、職場のエンゲージメント向上のためには、傾聴し、じっくり話しあう、建設的対話が必要とされています。 咳エチケットや換気、また、働き方の選択肢としてテレワークは継続してよいのではないでしょうか。 BCPのメンテナンスも重要です。

  Q.今後の新型インフルエンザワクチン接種の必要性は?

忽那

:ワクチンによる感染予防効果は低下していますが、重症化予防効果は保たれています。 重症化を予防する効果は接種してから3か月以上たつと徐々に低下するとされています。 重症化するリスクのある方は年に2回、ない方は流行期に入る少し前の時期に接種されてはどうでしょう。

大竹

:重症化リスクがない方に無料でのワクチン接種を継続する必要はないと思います。最新のワクチンの効果や副反応などの情報をもとに自身で判断することが大切だと思います。

  Q.新型コロナを踏まえて、次のパンデミックに向けて医療現場が予め備えておくことはありますか?制度面や、実際の現場での視点等様々な角度から教えてください。

忽那

:HER-SYSの入力に疲弊した医療従事者が多く、IT化が課題。また各病院が果たす役割を事前に決めて準備しておくことが大切です。

大竹

:動線の問題から患者さんを診ることができないという医療機関もあり、今後は感染症患者を診療できる体制を構築しておく必要があると思います。

  Q.オミクロン株では重症化率が低いことは2022年の初め頃にはわかっていたものの、5類移行の決定がそれから一年もかかったのはなぜですか?

大竹

:リアルタイムで重症化率を把握することができず、政策に反映させることが遅くなったのが原因の一つだと思います。

  Q.今後、2類相当に戻る可能性は?また、社会を止めないとすれば、どのような対策が良いですか?

忽那

:今後、病原性が異なる変異株が出現し、重症化率が高いものになれば2類相当に戻る可能性はありますが、新型コロナウイルスに対して免疫を有する方が増えてきているので、その可能性は低いと思います。

大竹

:今後の変異株の感染力や重症化率にもよりますが、医療提供体制を迅速に、柔軟に対応するできれば、社会を止めなくてもよい、あるいは弱い行動制限で済むのではないかと思います。

  Q.コロナ感染からの学級閉鎖に関して、SNSやメディアで批判が集まったことに疑問を感じました。季節性インフルエンザでも感染拡大による学級閉鎖は日常的であったはずです。マスク着用もインフル流行時はクラスの3割程は着用してました。5類移行によりコロナは何も対策すべきでないと過度に推奨する人が多いと思います。ご意見ください。

友川

:季節性インフルエンザでは感染者本人のみが欠席扱いとなりますが、新型コロナウイルスでは感染者だけでなく濃厚接触者も欠席者としてカウントされ学級閉鎖になったことには疑問を感じます。

大竹

:コロナ禍の当初は学級閉鎖の基準が厳しく、オミクロン株に移行してからもその基準が継続されていたので、現場で混乱を招いたのではないでしょうか。

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