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研究成果

2022.12.20

「感染は自業自得」と考える人の特徴は何か ~非常時における政府の行動制限に賛成する人ほど、「新型コロナ感染は自業自得」と考えていた~
【村上道夫特任教授、(兼)三浦麻子教授、山縣芽生さん、PeerJに発表】

研究成果のポイント

・これまでに、日本では新型コロナウイルス(以下、「新型コロナ」)感染を「自業自得」と考える人の割合が他国よりも高いことが知られていた。

・今回の研究では、日本における新型コロナ感染は自業自得と考える人の特徴を分析した

・非常時における政府の行動制限に賛成する人ほど、新型コロナ感染は自業自得と思う傾向があった

・平均的な日本人が新型コロナに感染する可能性は低いと思う人ほど、新型コロナ感染は自業自得と思う傾向があったが、その関連は弱かった

・新型コロナ感染症禍での差別や偏見の課題解決に向けた基盤的知見を提供できた

研究成果の概要

大阪大学感染症総合教育研究拠点の村上道夫特任教授(常勤)、三浦麻子教授(大阪大学大学院人間科学研究科、感染症総合教育研究拠点兼任)、平石界教授(慶應義塾大学文学部)、山縣芽生さん(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程3年)、中西大輔教授(広島修道大学健康科学部)らの研究グループは「新型コロナ感染は自業自得」と考える人の特徴を世界で初めて明らかにしました。

これまで、新型コロナに感染したのは自業自得であると考える人の割合は、日本において他国よりも高いことが知られていました。しかし、新型コロナ感染は自業自得と考える人の特徴は検討されていませんでした。

今回、村上道夫特任教授(常勤)、三浦麻子教授らの研究グループは、2020年8月時点のアンケート調査結果を用い、新型コロナ感染流行早期におけるその特徴を調べました。その結果、「新型コロナ感染を自業自得と思うこと」と最も強く関連するのは、「非常時における政府の行動制限に賛成すること」だとわかりました。さらに、「平均的な日本人が新型コロナに感染する可能性は低いと思う人」や、若年者や男性の方が、新型コロナ感染は自業自得と思う傾向がありましたが、その関連は弱いものでした。また、回答者の居住地域、居住地域の人口密度、学歴、職業は関連がありませんでした。


この研究は、日本人の新型コロナ感染症禍で生じる感染者への偏見に関する基盤的知見を提供するもので、今後、新型コロナ感染症に関する偏見の課題解決につながることが期待されます。
本研究成果は、英国・米国の科学誌「PeerJ」(オンライン)に、2022年12月19日に掲載されました。


研究の背景

新型コロナ感染症の流行以降、新型コロナに感染した人に対する差別的な言動や、特定の職業に対する偏見の顕在化などの問題が生じました。また、とくに流行早期には、外出や営業などに関する行政からの自粛要請に応じない人や店などに対し、私的な取り締まりを行う(いわば「自粛警察」)といった行動が見られました。このような社会的状況下において、本研究グループは、新型コロナ感染を自業自得と思う割合が、日本において他国より高いことを示してきました(三浦ら, 科学, 90(10), pp.906-908, 2020)。しかしながら、新型コロナ感染を自業自得と思う人の特徴は検討されていませんでした。そこで、本研究では、こうした人たちの特徴を2020年8月時点の調査結果を用いて解析しました。


研究の内容

新型コロナ感染を自業自得と思うかどうかを問う質問項目※1は、「内在的公正世界信念※2」という概念に基づいて作成されたものです。内在的公正世界信念の強さは、ある被害の原因を被害者のせいだと考えたり、被害者を罰しようとしたりする傾向と関連があります。こうした傾向を、どのような人が持ち合わせているのかを知るために、2020年8月7-8日に、日本全国の一般市民1207名を対象に実施したオンライン調査(20-69歳)のデータを用いて分析を行いました。
その結果、「新型コロナ感染を自業自得と思うこと」と最も強く関連するのは、「非常時における政府の行動制限に賛成すること※3」だとわかり、他者に対して強い規制を求める傾向と「自業自得」感情には関連があることが示されました。また、平均的な日本人が新型コロナに感染する可能性は低い、つまり、新型コロナ感染がありふれた出来事ではないと考える人や、若年者や男性の方が、新型コロナ感染は自業自得と思う傾向がありましたが、その関連は弱いものでした。一方、回答者の居住地域、居住地域の人口密度、学歴、職業は関連しませんでした。

本研究の意義

本研究では、新型コロナ感染症に関する偏見の課題解決にむけ、基盤となるような知見を提供できた点で意義があります。 新型コロナ感染症流行下では、差別や偏見といった社会的・心理的な問題も生じます。本研究では、新型コロナ感染を自業自得と見なす考えをする人にはどのような特徴があるかを明らかにすることに焦点を当てました。感染禍における差別、偏見がどのような原因で生じるのかを明らかにすることは、そうした状況においてウェルビーイングを高める方法を考えたり、人々が何を正義と考えるかを探したりする上で重要です。本研究は、そのための基盤となる知見(手がかり)を得た、ということになります。


特記事項

<掲載論文>

本研究成果は、2022年12月19日に英国・米国の科学誌「PeerJ」(オンライン)に掲載されました。

“Belief in just deserts regarding individuals infected with COVID-19 in Japan and its associations with demographic factors and infection-related and socio-psychological characteristics: A cross-sectional study”

村上 道夫1・平石 界3・山縣 芽生2・中西 大輔4・三浦 麻子1,2

DOI:https://peerj.com/articles/14545/


所属

1.大阪大学感染症総合教育研究拠点

2.大阪大学大学院人間科学研究科

3.慶應義塾大学文学部

4.広島修道大学健康科学部


本研究は、科研費(19H01750)および日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクトの一環として行われました。

ResOU: https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20221219_2


三浦麻子教授のコメント
新型コロナ感染症禍が始まった2020年春、不運にも感染を経験した方を世間はどう受け止めるだろう、という素朴な疑問から実施した私たちの調査が大きな注目を集めました。そこで示された「日本人は他国の人々よりも「感染は自業自得」と受け止めやすい」という結果の原因は、その後もデータを取り続けながら慎重に検討中です。本研究で「とにかくルールは遵守すべき」という思いとの関連が見いだされたことは、大きな手がかりとなりそうです。

用語説明

※1 自業自得と思うかどうかを問う質問項目:下記のような2つの質問項目を用いた。
・新型コロナウイルスに感染する人は、自業自得だと思う
・新型コロナウイルスに感染した人がいたとしたら、それは本人のせいだと思う
(選択肢は、どちらも「1:まったくそう思わない、2:あまりそう思わない、3:どちらかといえばそう思わない、4:どちらかといえばそう思う、5:ややそう思う、6:非常にそう思う」)

※2 内在的公正世界信念 :ある出来事(とりわけ負の結果)が生じた原因を、過去の行いによるものだと見なす信念。公正世界信念(世界は公正で安全な場所で、人はその人にふさわしいものを手にしているとみなす信念を構成する概念)の一つ。公正世界信念を構成するもう一つの概念に究極的公正世界信念(不公正な出来事によって生じた損失は将来的に埋めあわされると見なす信念)がある(Maes, J. (1998). Immanent justice and ultimate justice, in: L. Montada, & M. J. Lerner (Eds.), Responses to victimizations and belief in a just world. Springer US, Boston, MA, pp. 9-40.)。

※3 非常時における政府の行動制限に賛成すること:下記のような6つの質問項目を用いた。
・非常時には、政府からの移動の自由を制限する要請に応えるのが良い
・非常時には、政府の方針に反する言論は法律によって罰されるべきである
・非常時には、政府の外出制限方針に反して外出した人は法律によって罰されるべきである
・非常時には、他の人たちを政府の方針に従わせるために、個々人の判断で行動を起こして良い
・非常時には、政府からの言論の自由を制限する要請に応えるのが良い
・非常時には、他の人たちが政府の方針に従っているか、一人ひとりが見張るべきである
(選択肢は、いずれも「1:全く違うと思う、2:おおよそ違うと思う、3:少し違うと思う、4:どちらともいえない、5:少しそう思う、6:まあまあそう思う、7:強くそう思う」)

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