日本人集団初の免疫細胞シングルセルアトラスの創生Deciphering state-dependent immune features from multi-layer omics data at single-cell resolution
岡田随象教授、奥﨑大介准教授らの研究グループの研究成果が公開されました。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の枝廣龍哉助教(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム 客員研究員)、佐藤豪さん(当時:博士課程、現在:東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 助教/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム 客員研究員)、熊ノ郷淳教授(呼吸器・免疫内科学)、岡田随象教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームディレクター)らの研究グループは、日本人集団235名(新型コロナウイルス感染症:COVID-19患者88名、健常者147名)のPBMC 150万細胞超を対象にシングルセルトランスクリプトーム解析(scRNA-seq)を実施し、生殖細胞系列変異と体細胞変異を含むヒトゲノムデータ・血漿プロテオームデータ・腸内微生物叢シークエンスデータの多層オミクス情報を有する免疫細胞シングルセルアトラス「OASIS」を構築しました。
このOASISを用いて、各種オミクス情報をシングルセル空間に単一細胞解像度で投影する解析を網羅的に実施しました。その結果、生殖細胞系列変異(一塩基多型:SNP、HLA多型、ポリジェニックリスクスコア:PRS)、体細胞変異(モザイク染色体異常: mCA、Y染色体喪失: LOY、ミトコンドリア・ヘテロプラスミー)、腸内微生物叢菌量は、細胞種・細胞状態に応じて免疫細胞プロファイルを動的に制御していることが明らかとなりました。
また、その解析の一環で、日本人集団における初のシングルセルeQTLリソースを構築することに成功しました。
さらに、体細胞変異は、COVID-19患者において細胞種特異的に集約される傾向を示し、同一個体内においても変異細胞と正常細胞とで異なる免疫プロファイルを示すことが確認できました。また、これらの体細胞変異がCOVID-19重症化の一因となる分子メカニズムも解明しました。
本研究は、多層的オミクス情報をシングルセル空間に投影する新たな解析フレームワークを提示したものであり、今後の疾患病態解明やゲノム創薬発展に向けた重要な基盤となることが期待されます。
研究成果のポイント
- 日本人集団235名由来の150万超の末梢血単核細胞(PBMC)を用いたシングルセルデータを中心とし、ヒトゲノムデータ・血漿プロテオームデータ・腸内微生物叢シークエンスデータの多層オミクス情報を有する免疫細胞シングルセルアトラス「OASIS(Osaka Atlas of Immune Cells)」を構築。
- 各種オミクス情報をシングルセル空間に単一細胞解像度で投影することで、各オミクスが細胞種・細胞状態に応じて免疫細胞プロファイルを動的に制御していることを明らかに。
- あわせて、日本人集団における初のシングルセルeQTL(expression quantitative trait loci)リソースの構築に成功し、日本人集団を対象とするゲノムワイド関連解析に活用できるデータベースに。
- 加齢に伴い後天的に蓄積する体細胞変異が、COVID-19重症化に関与する分子メカニズムの一端を解明。
- 新たな解析フレームワークが、疾患病態解明からゲノム創薬発展や個別化医療実現まで今後の広範な医学研究の強力な基盤となることに期待。
本研究成果は、2025年7月28日(月)に英国科学誌「Nature Genetics」(オンライン)に掲載されました。
Title
Deciphering state-dependent immune features from multi-layer omics data at single-cell resolution
Authors
Ryuya Edahiro, Go Sato, Tatsuhiko Naito, Yuya Shirai, Ryunosuke Saiki, Kyuto Sonehara, Yoshihiko Tomofuji, Kenichi Yamamoto, Shinichi Namba, Noah Sasa, Genta Nagao, Qingbo S Wang, Yugo Takahashi, Takanori Hasegawa, Toshihiro Kishikawa, Ken Suzuki, Yu-Chen Liu, Daisuke Motooka, Ayako Takuwa, Hiromu Tanaka, Shuhei Azekawa, Japan COVID-19 Task Force, Ho Namkoong, Ryuji Koike, Akinori Kimura, Seiya Imoto, Satoru Miyano, Takanori Kanai, Koichi Fukunaga, Mamoru Uemura, Takayoshi Morita, Yasuhiro Kato, Haruhiko Hirata, Yoshito Takeda, Yuichiro Doki, Hidetoshi Eguchi, Daisuke Okuzaki, Shuhei Sakakibara, Seishi Ogawa, Atsushi Kumanogoh, and Yukinori Okada
Journal
Published online in Nature Genetics on July 28, 2025