濾胞性制御性T細胞の“赤ちゃん”を発見!重症感染症の免疫調節不全の仕組みを解明Human precursor T follicular regulatory cells are primed for differentiation into mature Tfr and disrupted during severe infections
大阪大学感染症総合教育研究拠点のJames Badger Wing教授らの研究グループは、ヒト血液中を循環する濾胞性制御性T細胞(Tfr)の分化段階に、新たに30~50%がナイーブ様表現型を持つ前駆型Tfr(preTfr)であることを世界で初めて明らかにしました。
概要
preTfrはCD45RA+CXCR5+という特徴的な表現型を持つ細胞であり、培養下でも増殖しつつ免疫制御機能を維持できることが分かりました。これまでTfr細胞は、免疫応答を調節し、抗体産生を制御する重要な免疫細胞として知られていましたが、その発生過程は不明でした。
研究グループは、マスサイトメトリー※3およびRNAシーケンス解析を用いて、刺激を受けたpreTfrがIL-1RA※4などの成熟型Tfrに関連する抑制分子の発現を増加させることを明らかにしました。これにより、preTfrが成熟型Tfrに分化する準備状態にあることが示され、Tfr細胞の成長過程の理解が深まりました。
さらに、重症COVID-19および敗血症患者の血液を解析した結果、preTfrと成熟型Tfrのいずれもが著しく減少しており、この減少は抗インターフェロンγ自己抗体※5の増加と活性化非定型B細胞の増加と相関することを発見しました。
対照的に、通常のナイーブ制御性T細胞は影響を受けず、重症感染症においてはpreTfrが特に重要な役割を果たしていることが示されました。
これにより、重症感染症における自己抗体産生メカニズムの解明を進展させるとともに、ワクチン開発や自己免疫疾患治療の新たな標的の発見につながることが期待でき、免疫学の発展に貢献する画期的なものとして注目されています。
本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、2025年9月26日(木)に公開されました。
研究のポイント
- ヒト循環血中の濾胞性制御性T細胞(Tfr)のうち、30-50%が前駆型Tfr(preTfr)であることを発見し、重症感染症における免疫調節不全の新たなメカニズムを解明
- これまでTfr細胞の分化(成長)段階は不明であったが、CD45RA+CXCR5+という特徴を持つpreTfrが成熟型Tfrへの分化準備状態(”赤ちゃん”状態)にあることを発見。また、重症COVID-19や敗血症患者では、このpreTfrが特に減少する一方で、通常のナイーブ制御性T細胞は安定していることも判明
- この成果により、重症感染症における自己抗体の産生メカニズムの理解が進むことで、今後、ワクチン開発や自己免疫疾患の新たな治療法や、個別化医療への応用に期待
Title
Human precursor T follicular regulatory cells are primed for differentiation into mature Tfr and disrupted during severe infections
Authors
Janyerkye Tulyeu, Jonas N. Søndergaard, David G. Priest, Takeshi Ebihara, Hisatake Matsumoto, Mara A. Llamas-Covarrubias, Masaki Imai, Shinichi Esaki, Shinichi Iwasaki, Akimichi Morita, Sayuri Yamazaki, Shimon Sakaguchi, James B. Wing
Journal
Published online in Science Advances on September 26, 2025
DOI
https://doi.org/10.1126/sciadv.adv6939

James B. Wing教授のコメント
重症感染症において免疫制御がどのように破綻するかを理解することは、患者さんの予後改善に直結する重要な課題です。本研究で最も印象的だったのは、preTfrという新しい細胞集団が、重症COVID-19や敗血症において特異的に減少し、自己抗体の産生と強く関連していたことです。これまでTfr全体の減少は知られていましたが、実際にはその最も早期の前駆段階から影響を受けていることが明らかになりました。一方で、ワクチン接種ではpreTfrが増加することから、これらの細胞が適切な免疫応答の維持に重要な役割を果たしていることが示されました。
今後は、preTfrを標的とした治療法の開発や、重症化リスクの早期予測マーカーとしての応用が期待されます。また、自己免疫疾患における養子細胞療法への応用も視野に入れており、患者さんの治療選択肢を広げることに貢献したいと考えています。