Home | CiDER 大阪大学感染症総合教育研究拠点

search
Home - 最新情報 -  病状の指標となる液性因子に応じて薬効タンパク質の産生量を自動調整する次世代mRNA医薬を開発
papers研究成果
2025.06.06
NEW
PRESS RELEASE

病状の指標となる液性因子に応じて薬効タンパク質の産生量を自動調整する次世代mRNA医薬を開発Extracellular ligand-responsive translational regulation of synthetic mRNAs using engineered receptors

大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)の中西 秀之特任講師(常勤)と位髙啓史教授は、ホルモンなどの液性因子を検知し、それに応じて投与されたmRNAからタンパク質への翻訳(mRNAの情報を読み取って、そのmRNAがコードするタンパク質を産生する過程で、人間の細胞内でもこの翻訳過程によりタンパク質が産生される)が調節される、新しいタイプのmRNA医薬を開発しました。

概要

この新しいタイプのmRNA医薬は、液性因子の検知を担う受容体部分を変更することで、さまざまな液性因子に対応可能です。抗利尿ホルモンや疼痛関連分子など、種々の液性因子を検知し、それに応じてmRNAからのタンパク質産生量が制御できることを確認しました。また、炎症の指標となるプロスタグランジンE2(細胞が合成する生理活性物質の一種で、炎症時に合成量が増大する)を検知対象とし、抗炎症性タンパク質を産生するmRNAを制御することで、炎症シグナルを抑制できることも示されました。

本研究において、日々変化する病状や病態を反映する液性因子を検知し、それに応じてmRNAからのタンパク質産生量を調節することにより、薬剤やワクチンとしての効果や安全性を高める、新たな創薬アプローチにつながることが期待されます。

研究成果のポイント

  • 投与したmRNAからのタンパク質産生が、ホルモンなどの液性因子の量に応じて調節される、新しいタイプのmRNA医薬を開発しました。
  • 液性因子を検知するためのタンパク質を産生するmRNA、翻訳を制御するためのタンパク質を産生するmRNA、薬効タンパク質を産生する制御対象mRNAの3種を組み合わせることで、細胞周辺の環境に応じたタンパク質産生の自律的な制御が可能となりました。
  • 症状や病態の変化に応じて、薬効タンパク質の産生量を体内で自動的に最適化できる、新しいタイプのmRNA創薬への展開が期待されます。

本研究成果は、Springer Natureのオープンアクセスジャーナル「NPG Asia Materials」誌に2025年6月6日(現地時間)に公開されました。

Title

“Extracellular ligand-responsive translational regulation of synthetic mRNAs using engineered receptors”

Authors

Hideyuki Nakanishi & Keiji Itaka

DOI

https://doi.org/10.1038/s41427-025-00607-6

中西 秀之特任講師のコメント

mRNAの医療応用としては病原体の抗原タンパク質を産生するワクチンが有名ですが、mRNAを使えば抗原タンパク質に限らず、原則としてどのようなタンパク質であっても体内で産生させることができます。生物は長い歴史の中で、センサーとして働くタンパク質や遺伝子発現を制御するタンパク質など、様々な機能を持つタンパク質を生み出してきました。そうしたタンパク質をうまく組み合わせて産生させれば、SFに登場するナノマシンのような体内の異常を検知して自律的に病気を治す機能を、体内の細胞に付与することも夢ではないでしょう。今回の研究成果を基盤として、そうした未来の医療へと繋がる新たなmRNA医薬を開発していきたいと考えています。

病状の指標となる液性因子に応じて薬効タンパク質の産生量を自動調整する次世代mRNA医薬を開発 | CiDER 大阪大学感染症総合教育研究拠点