\マスク、いつから着けた?/ 感染対策の開始時期はニュースソースと関連するExploration of factors associated with mask-wearing and hand disinfection in Japan after the coronavirus disease outbreak: A longitudinal study
研究成果のポイント
- 3年間・23回(2020年1月から2023年1月まで)の調査データを用いて、マスク着用と手指消毒を行う人の特徴を解析した。
- 知人と情報交換する人ほど、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)流行後に新たにマスク着用や手指消毒を開始した。
- 医療情報を利用している人ほど、コロナ流行前でもマスク着用や手指消毒をしていた。
- 利用する情報源の種類によって、マスク着用や手指消毒を実施する時期が異なった。
研究成果の概要
大阪大学感染症総合教育研究拠点の村上 道夫特任教授(常勤)、山縣 芽生連携研究員((兼)同志社大学文化情報学部 助教)、三浦 麻子教授(大阪大学大学院人間科学研究科、(兼)大阪大学感染症総合教育研究拠点)の研究グループは、COVID-19が世界的に広がり始める前(コロナ流行前)と後(コロナ流行後)のマスク着用や手指消毒に関連する個人の特徴を調査しました。
これまで、コロナ流行後の感染対策行動と関連する個人の特徴についての報告事例の多くは、単発か少数の調査に基づくものでした。そこで今回、研究グループは、2020年1月から2023年1月までの23回にわたるパネル調査(同一人物の行動や心理の変化を追跡していくタイプの調査)を用いて、コロナ流行後にマスク着用や手指消毒を始めた人、ならびに、コロナ流行前からそれらの感染対策を行っていた人の特徴を調べました。その結果、以下のことが判明しました。
- 知人と情報交換する人ほど、コロナ流行後に新たにマスク着用や手指消毒を行っていました。
- テレビや新聞などのマスメディアの情報を利用する人ほど、コロナ流行後に手指消毒を行っていました。
- 厚生労働省や医療機関のHPの情報を利用する人ほど、コロナ流行前からマスク着用や手指消毒を行っていました。
このように、利用する情報源の種類によって、マスク着用や手指消毒を実施する時期が異なっていました。このことから、今後、感染症の流行が起きた際に感染予防対策を推進するには、情報源の種類と時期に応じた発信のあり方を考慮することが重要であると考えられます。
本研究成果は、オランダ科学誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」に、2023年11月7日に公開されました。
研究の背景
感染症の流行が生じた際は、緊急事態宣言のような都道府県レベルで実施される社会的措置のほかに、マスク着用や手指消毒のように個人レベルで実施できる対策があります。このような個人レベルで実施できる感染対策を行う人の特徴を明らかにすることは、今後の様々な季節性あるいは新規の感染症に対する感染対策を推進するうえで重要です。
コロナの感染対策行動と関連する要因についての研究はこれまでにも多数行われてきましたが、そのほとんどは、単発か少数の調査に基づくものでした。長期にわたる追跡調査によって感染対策を新たに始めた人の特徴を特定できれば、感染対策促進に向けての時期に応じた情報発信のあり方を検討するうえで有用な知見が得られると期待できます。
そこで、本研究では、2020年1月から2023年1月までに日本で行われた23回の調査を用いて、コロナ流行前にマスク着用や手指消毒を実施していた人、および、流行後にこれらの感染対策を始めた人の特徴を解析しました。
研究の方法
日本の18歳以上の一般市民を対象に、2020年1月から2023年1月まで合計23回のオンラインアンケート調査を行いました。1回目の調査に参加した人は1248人、途中で参加者を追加しながら追跡していき、23回目の参加者数は687名でした。
まず、「コロナ流行前にマスク着用や手指消毒を実施していたか」について振り返って回答を求め、そのうえで、個人の特徴との関連を調べました。個人の特徴として調査した項目は、性別、年齢、居住都道府県の人口密度、コロナの恐ろしさ認知※2、コロナの未知性認知※3、感染忌避傾向※4、コロナへの関心、情報源の利用頻度(①厚生労働省や医療機関のHP、②テレビや新聞などマスメディア、③ソーシャルメディア(SNS)などインターネット上での情報、④家族・友人・同僚などとの情報交換)でした。情報源の利用頻度は、それぞれ、「1 = 全く利用していない」から「7 = 非常に利用している」の中から1つを選択するように求めました。
次に、1回目の調査時点でのマスク着用や手指消毒の実施の有無と、流行前でのそれらの感染対策の実施や個人の特徴との関連を調べました。さらに、1回目の調査時点でマスク着用や手指消毒を行っていなかった人を対象に、これらの感染対策を始めるまでの日数と個人の特徴との関連を解析しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
利用される情報の種類によって感染予防行動を開始する時期が異なったことは、感染予防行動を促すうえでの情報発信のあり方を考えるうえで重要です。行政機関や医療機関などの情報を感染症流行前から充実させ、利用者を増やすことは感染予防行動の促進につながる可能性があります。また、テレビや新聞などの情報源は、感染症流行以降に定期的に感染症対策に関する情報発信を継続し、知人などを介した情報交換を加速させることが有用だと考えられます。
Title
“Exploration of factors associated with mask-wearing and hand disinfection in Japan after the coronavirus disease outbreak: A longitudinal study”
Author
村上 道夫, 山縣 芽生, 三浦 麻子