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研究成果

2023.10.27

5類移行前後でマスク着用率とマスク着用に関する理由はどのように影響しあったか
【村上 道夫特任教授(常勤), IJDRRに発表】

研究成果のポイント

・これまで、日本では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下でのマスク着用率が高いこと、並びに、マスク着用が推奨されている時期では、規範観が高い人ほどマスクを着用する傾向があることが知られていた。

・今回の研究では、COVID-19の5類感染症移行前後で日本におけるマスク着用率とその理由を調査するとともに、両者の関連の方向性を解析した。

・2023年4月と6月において、マスクを頻繁に着用すると回答した人はそれぞれ67%、59%であり、マスク着用率はわずかに低下した。

・マスク着用の理由を、「感染リスク回避」と「それ以外の社会心理的理由(規範観や安心感など)」に分類して解析したところ、以下のことがわかった。

    ①「感染リスク回避以外の社会心理的要因に関する理由(4月時点)」は「マスク着用(6月時点)」と関連があった。すなわち、4月に社会心理的要因の理由を重視していた人は、6月にマスクを着用していた(あるいは、4月に社会心理的要因の理由を重視していなかった人は、6月にマスクを着用しなくなった)。

    ②「マスク着用(4月時点)」は「感染リスク回避に関する理由(6月時点)」と関連があった。すなわち、4月にマスクを着用していた人は、6月に感染リスク回避の理由を重視するようになった(あるいは、4月にマスクと着用していなかった人は、6月に感染リスク回避の理由を重視しなくなった)。

・マスク着用の緩和が進む場合においても、規範観や安心感などの感染リスク回避以外の社会心理的要因を踏まえた情報や社会像の発信と共有が重要であると考えられた。

研究の概要と成果

大阪大学感染症総合教育研究拠点の村上道夫特任教授(常勤)は、COVID-19の5類感染症移行前後におけるマスク着用とその理由を調査するとともに、両者の関連の方向性を解析しました。


これまで、日本ではCOVID-19流行下でのマスク着用率が高いこと、並びに、マスク着用が推奨されている時期では、規範観が高い人ほどマスクを着用する傾向があることが知られていました。しかし、マスク着用とその理由の関連の方向性については明らかになっていませんでした。また、2023年5月8日にCOVID-19が5類感染症に移行してからマスク着用率は下がると推測されていましたが、どのような理由がその変化に関連するかは不明でした。


そこで、今回、5類感染症移行前後にあたる2023年4月と6月に日本におけるマスク着用とその理由を調査するとともに、両者の関連の方向性を解析しました。


その結果、2023年4月と6月において、マスクを頻繁に着用すると回答した人はそれぞれ67%、59%であり、マスク着用率はわずかに低下しました。マスク着用とその理由の関連の方向性を分析したところ、以下のことが判明しました。

   ①4月時点における感染リスク回避以外の社会心理的要因に関する理由(規範観や安心感など)が6月のマスク着用に影響を及ぼした。すなわち、4月に社会心理的要因の理由を重視していた人は、6月にマスクを着用していた(あるいは、4月に社会心理的要因の理由を重視していなかった人は、6月にマスクを着用しなくなった)。

   ②4月時点のマスク着用は、6月時点の感染リスク回避に関する理由(自身の感染防御や他の人への感染予防)に影響を及ぼした。すなわち、4月にマスクを着用していた人は、6月に感染リスク回避の理由を重視するようになった(あるいは、4月にマスクと着用していなかった人は、6月に感染リスク回避の理由を重視しなくなった)。

このことから、マスク着用の緩和が進む場合においても、規範観や安心感などの感染リスク回避以外の社会心理的要因を踏まえた情報や社会像を発信したり、共有したりすることが重要だと考えられます。


本研究成果は、オランダ科学誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」に、2023年10月20日にオンライン公開されました。

研究の背景

マスク着用には感染症リスクを低減できる一方で、不快感等の心身への影響をもたらすデメリットがあることが知られています。日本では、2023年3月13日にそれまでの屋内のマスク着用推奨から個人の判断を基本とする方針へと変更し、5月8日にCOVID-19を季節性インフルエンザなどと同レベルの5類感染症へと移行しました。これにより、日本においてマスク着用行動の変化が生じる可能性が考えられました。


これまで、日本ではCOVID-19流行下でのマスク着用率が高いこと、並びに、マスク着用が推奨されている時期において、規範観が高い人ほどマスクを着用する傾向があることが知られていました。しかし、規範観が高いとマスクを着けるようになるのか、あるいは、マスクを着けると規範観が高くなるのか、といったマスク着用とその理由の関連の方向性については明らかになっていませんでした。この方向性を明らかにすることは、マスク着用の推奨と緩和のいかんによらず、マスク着用に関する情報発信や共有のあり方を考えるうえで重要です。


そこで、本研究では、5類感染症移行前の2023年4月と移行後の6月に日本におけるマスク着用とその理由を調査するとともに、両者の関連の方向性を解析しました。

研究の方法

2023年4月と6月にオンラインアンケート調査を行いました。2回のアンケート両方に回答した人数は291名でした。


過去1週間におけるマスク着用(花粉症対策目的を除く)について、「1:まったく着用しなかった、2:少しは着用した、3:頻繁に着用した」から1つを選択することを求めました。


マスク着用に関する理由としては、Nakayachiら(Frontiers in Psychology, 11, 1918, 2020)が用いた「COVID-19の症状の深刻さ」「自身の感染防御」「他の人への感染予防」「どのような対策でも行う」「規範観」「安心感」の6項目に「同調圧力」「情報影響」を加えた合計8項目について、「1:まったくそう思わない」から「5:非常にそう思う」の5段階の中から1つを選択することを求めました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、COVID-19の5類感染症移行前後におけるマスク着用とその理由の変化と、その関連の方向性を明らかにしました。マスク着用率はわずかに低下しており、マスク着用とその理由への考えに双方向の関係があること、並びに、感染リスク回避とそれ以外の社会心理的要因の間で、マスク着用との関連の方向性が異なることを示すことができました。


本研究から、マスク着用率が低下する状況においても、規範観や安心感などの感染リスク回避以外の社会心理的要因を踏まえた情報や社会像を発信したり、共有したりすることが重要であると示されました。

特記事項

<掲載論文>

タイトル:“Bi-directional associations between mask usage and the associated reasons before and after the downgrading of the legal status of COVID-19 in Japan: A longitudinal study”
著者名:村上 道夫

DOI:https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2023.104072


本研究は、日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクトの一環として行われました。


【 詳細はこちら(PDF) 】


村上 道夫特任教授(常勤)のコメント
   今回の調査で興味深かったのは、マスク着用がその後の感染リスク回避に関する理由に影響を及ぼしたことです。このことは、マスク着用率の低下が進むと、マスクによる感染リスク回避の重要性の認識がさらに低下する可能性があることを意味しています。この機序の決定的な特定には至っていませんが、自己知覚理論によって解釈することができるかもしれません。すなわち、マスク着用をしている自身(あるいはしていない自身)を知覚することで、自身の行動に対する分かりやすい解釈として、感染リスクを回避することは重要である(あるいは重要ではない)という理由を自身の考えへと当てはめた、というものです。
  COVID-19の感染の拡大や新たな感染症が流行する際など、今後、マスク着用を促進するような場面が生じた際には、マスクによる感染リスク回避の重要性に焦点を当てただけの情報発信と共有では困難さを伴うかもしれません。マスク着用の推奨と緩和のいずれにしても、感染リスク回避とその他の社会心理要因の両者を考慮した上で、なぜマスク着用が必要なのか(あるいは不要なのか)といった、情報や社会像の発信と共有が重要だと考えています。

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