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研究成果

2023.3.27

肝細胞がんにおけるDKK1-CKAP4シグナル軸の活性化の臨床的意義と治療薬開発への応用【菊池 章特任教授らの研究グループが Cancer Sci.に発表】

研究成果のポイント

・新規のがんシグナルであるDKK1-CAKP4経路の活性化の肝細胞がん(肝がん)における意義は不明であり、本経路が治療標的になり得るかも明らかでなかった。

・412例の肝がん症例の解析から、リガンドであるDKK1と受容体であるCAKP4の両タンパク質が高発現している症例は悪性度が高く、予後不良であった。

・抗CKAP4抗体により、DKK1-CKAP4経路を遮断すると肝がん細胞増殖が阻害された。

・肝がんの標準治療薬であるマルチキナーゼ阻害剤レンバチニブと抗CKAP4抗体を併用すると、マウスモデルにおける肝がん細胞増殖能が相乗的に阻害された。

研究成果の概要

大阪大学感染症総合教育研究拠点の菊池 章特任教授、同医学系研究科の松本 真司准教授、佐田 遼太助教、井口 浩輔大学院生らの研究グループは、肝細胞がん(肝がん)においてDKK1-CKAP4シグナルが活性化されていて、CKAP4が肝がん治療の新規の分子標的になることを明らかにしました。我が国では、肝がんにより毎年約25,000人が死亡しています。近年、肝がんに対する薬物療法として免疫チェックポイント阻害剤やマルチキナーゼ阻害を用いた治療が開発され予後を改善していますが、それらに不応の症例もあり、新たな分子標的治療薬の開発が求められています。
今回、菊池特任教授らの研究グループは、自身が発見した新規のがんシグナルであるDKK1-CKAP4経路が活性化されており、本経路の活性化が肝がんの増殖を促進することを見出しました。また、開発中の抗CKAP4抗体が肝がん細胞の増殖を阻害することをマウスのモデル実験で示しました。さらに、標準治療薬のレンバチニブと併用することにより、抗腫瘍効果が増強されることを示し、新たな治療法の開発につながる可能性を見出しました。
本研究成果は、Cancer Scienceに公開されました。


研究の背景

Dickkopf1(DKK1)は細胞外分泌タンパク質で、種々のがん細胞の増殖を促進することが知られていましたが、長年にわたりその作用機構は不明でした。菊池特任教授のグループは、2016年にDKK1の細胞膜受容体としてCytoskeleton-Associated Protein 4 (CKAP4)を同定しました。DKK1がCKAP4に結合すると、PI3キナーゼ―AKT経路が活性化され、がん細胞増殖が促進されることが判明し、新規に開発した抗CKAP4抗体がDKK1-CKAP4シグナル経路を抑制してがん細胞増殖を阻害することも明らかになりました。同グループは、これまでに膵がんと肺がん、食道がんでDKK1-CKAP4シグナル経路が活性化されている症例では、予後不良と相関することも報告してきました。また、これらの難治がんのマウスモデルに対して、抗CKAP4抗体が抗腫瘍効果を有することを示しました。
今回の研究では、412例の肝がん症例を用いて、DKK1-CKAP4シグナル経路が活性化されているか否かを明らかにして、抗CKAP4抗体が肝がん細胞に対して抗腫瘍効果を示すかを検討しました。

研究の内容

1.神戸大学医学系研究科肝胆膵外科 福本巧教授、権英寿助教との共同研究により、412症例からなる肝がん組織マイクロアレイを作製して、DKK1とCKAP4の発現を免疫組織学的に解析し、これらの発現と臨床病理学的所見との比較を行いました。その結果、DKK1とCKAP4の両タンパク質が高発現している症例は、どちらか一方のみが高発現している症例または両者とも発発現していない症例に比して、悪性度が高く、予後も不良でした。

2.9種類の肝細胞がん株のDKK1とCKAP4の発現を確認したところ、Hep3BとJHH7、 HuH-7細胞において両タンパク質を高発現していました(CKAP4は細胞膜受容体として機能するために、細胞膜に発現していることを確認しました)。Hep3BとJHH7細胞のDKK1またはCKAP4の発現を抑制すると、AKT活性が減少するとともに、in vivoおよびin vitroの実験系での細胞増殖能が低下しました。

3.切除不能肝細胞がんに対する標準薬物治療として、免疫チェックポイント阻害剤とマルチキナーゼ阻害剤が用いられています。そこで、抗CKAP4抗体とレンバチニブ(マルチキナーゼ阻害剤)の併用効果を検討したところ、単剤に比して、両者併用によりAKT活性の抑制と、マウスモデルにおけるHep3B細胞増殖が相乗的に阻害されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、412例の肝がん症例中55症例(13.3%)で、DKK1とCKAP4の両タンパク質が高発現しており、これらの症例は悪性度が高く、予後不良であることが判明しました。リガンドであるDKK1と受容体であるCKAP4が発現することにより、DKK1-CKAP4シグナル経路がより活性化され、がん細胞増殖が促進すると考えられました。これらの結果は、既に報告している膵がん、肺がん、食道がん症例との結果とも一致しました。さらに、抗CKAP4抗体が肝がん細胞増殖能を阻害したことから、CKAP4が肝がん治療の新規標的分子になる可能性が考えられ、レンバチニブとの併用により、抗CKAP4抗体の抗腫瘍効果が増強したことから、新たな治療戦略が示唆されました。肝がんは、標準治療に不応性の症例があるため、新たな治療法の開発が望まれています。本研究成果がその端緒となることが期待されます。

特記事項

<掲載論文>

タイトル:The DKK1-CKAP4 signal axis promotes hepatocellular carcinoma aggressiveness
著者名:Kosuke Iguchi, Ryota Sada, Shinji Matsumoto, Hirokazu Kimura, Yoh Zen, Masayuki Akita, Hidetoshi Gon, Takumi Fukumoto, Akira Kikuchi

DOI: https://doi.org/10.1111/cas.15743


※本研究成果は、2023年1月31日にCancer Scienceに掲載されました。


本研究は科学研究費補助金基盤SとAMED次世代がん創成事業の支援を受けて行われました。

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