皮膚がんの新たな発症機構を解明!-“悪性黒色腫”の新規治療標的タンパク質を発見-GREB1 isoform 4 is specifically transcribed by MITF and required for melanoma proliferation
大阪大学感染症総合教育研究拠点の菊池 章特任教授(常勤)と大学院医学系研究科の新澤 康英助教(分子病態生化学)らの研究グループは、悪性黒色腫における新規のがんシグナル軸ならびに治療のための分子標的を発見しました。悪性黒色腫は、色素細胞や黒子を発生母地とする皮膚がんで、皮膚がんの死亡者数の約80%が悪性黒色腫によるものです。分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤が著効を示す症例がある一方で、これらの治療薬が無効である症例も存在します。従いまして、これらの薬物療法に対して抵抗性の症例に対する新規薬剤開発が求められています。
GREB1はホルモン受容体により発現誘導される核内タンパク質で、発現したGREB1はホルモン受容体の転写活性を促進します。乳がんや前立腺がんでGREB1は発現上昇しており、これらのホルモン依存性がん細胞の増殖を促進します。これまでにGREB1とホルモン非依存性のがんとの関連は不明でしたが、研究グループは、GREB1が肝芽腫と肝細胞がんにおいて高発現し、これらのがん細胞の増殖を促進することを報告しました。
今回、悪性黒色腫においてGREB1の一部であるアイソフォーム4(Is4)が色素細胞特異的転写因子MITFにより発現することを見出し、GREB1 Is4がピリミジン代謝の制御を介して、がん細胞増殖を促進することを明らかにしました。さらに、GREB1 Is4に対するアンチセンス核酸が抗腫瘍効果を示したことから、悪性黒色腫においてGRB1 Is4が新たな治療標的であることを提唱しました。
本研究成果は、英国科学誌「Oncogene」(オンライン)に、2023年9月1日に掲載されました。
Title
“GREB1 isoform 4 is specifically transcribed by MITF and required for melanoma proliferation”
Authors
Koei Shinzawa*,Shinji Matsumoto, Ryota Sada, Akikazu Harada, Kaori Saitoh, Keiko Kato, Satsuki Ikeda, Akiyoshi Hirayama, Kazunori Yokoi, Atsushi Tanemura, Keisuke Nimura, Masahito Ikawa, Tomoyoshi Soga, and Akira Kikuchi*(*共同責任著者)
DOI
https://doi.org/10.1038/s41388-023-02803-6

菊池 章特任教授のコメント
GREB1はホルモン依存性の乳がんや前立腺がんで高発現して、これらのがん細胞増殖を促進することが知られていました。私達のグループは、ホルモン非依存性の肝がん、肝芽腫、悪性黒色腫でもGREB1が発現することを発見しました。今後、ホルモン非依存性悪性腫瘍における腫瘍特異的GREB1の発現制御機構の解明とGREB1を標的とする治療法開発が次の課題です。