COVID-19重症化における自然免疫細胞の関わりを明らかに ~シングルセル情報とゲノム情報の統合解析~Single-cell analyses and host genetics highlight the role of innate immune cells in COVID-19 severity
大阪大学大学院医学系研究科の枝廣龍哉 さん(博士課程)(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、白井雄也さん(博士課程)(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)ヒト生体防御学チームのJames B Wing准教授、熊ノ郷 淳教授(呼吸器・免疫内科学)、岡田 随象 教授(遺伝統計学/東京大学医学系研究科 遺伝情報学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループは、PBMCのシングルセル情報と宿主ゲノム情報との統合解析を実施することにより、COVID-19重症化における自然免疫細胞の役割を明らかにしました。
概要
COVID-19重症化には血液免疫細胞の応答異常が関与していることが報告されていますが、SARS-CoV-2感染に対する宿主の免疫応答は未だ不明な点が多くあります。また、大規模GWASによりCOVID-19重症化における宿主の遺伝的なリスクの寄与が明らかになっていますが、その病態機序は十分に解明されていませんでした。
今回、研究グループは、大阪大学が収集した日本人集団のCOVID-19患者73名と健常者75名のPBMCのシングルセル解析を実施するとともに、宿主ゲノム情報との統合解析を行いました(図1)。その結果、単球の中の希少細胞種であるCD14+CD16++単球がCOVID-19患者で顕著に減少しており、その一因がCD14+CD16++単球への細胞分化不全であることが分かりました。また、遺伝子発現変動解析と細胞間相互作用解析により、CD14+CD16++単球の機能不全が重症化に関与していることも分かりました。さらに、GWASで同定されたCOVID-19重症化関連遺伝子は、単球および樹状細胞で特異的に発現していること、COVID-19に関連する遺伝子多型がSARS-CoV-2感染状況下かつ細胞種特異的なeQTL(expression quantitative trait loci)効果を有することが分かりました。
本研究成果によって、COVID-19重症化に関与する細胞種を明らかにするとともに、重症化の宿主遺伝的リスクは自然免疫細胞に集約されていることを見出しました。本成果は、今後の感染症研究に資するものと期待されます。
研究成果のポイント
- 日本人148名(新型コロナウイルス感染症:COVID-19患者73名、健常者75名)由来の約90万の末梢血単核細胞(PBMC)を用いたシングルセル解析とともに、宿主ゲノム情報との統合解析を実施した。
- 単球の中の希少細胞種であるCD14+CD16++単球がCOVID-19重症化に関与していることを見出した。
- IFNAR2などゲノムワイド関連解析(GWAS)で同定されたCOVID-19重症化関連遺伝子は、主に単球および樹状細胞で特異的に機能していることが判明した。
- COVID-19を含めた様々な感染症の新しい治療法や診断法の開発につながることが期待される。
本研究成果は、2023年4月25日(火)午前0時(日本時間)に英国科学誌「Nature Genetics」(オンライン)に掲載されました。
Title
Single-cell analyses and host genetics highlight the role of innate immune cells in COVID-19 severity
Authors
Ryuya Edahiro, Yuya Shirai, Yusuke Takeshima, Shuhei Sakakibara, Yuta Yamaguchi, Teruaki Murakami, Takayoshi Morita, Yasuhiro Kato, Yu-Chen Liu, Daisuke Motooka, Yoko Naito, Ayako Takuwa, Fuminori Sugihara, Kentaro Tanaka, James B Wing, Kyuto Sonehara, Yoshihiko Tomofuji, Japan COVID-19 Task Force, Ho Namkoong, Hiromu Tanaka, Ho Lee, Koichi Fukunaga, Haruhiko Hirata, Yoshito Takeda,Daisuke Okuzaki, Atsushi Kumanogoh, Yukinori Okada