木下 タロウ特任教授(CiDER拠点長補佐)「アメリカ科学アカデミー外国人会員」選出・「瑞宝中綬章」受章
木下 タロウ特任教授(CiDER拠点長補佐)が「アメリカ科学アカデミー外国人会員」に選出されました。
米国科学アカデミー(NAS、The National Academy of Sciences)は、1863年に科学研究の推進と政府への科学的助言を提供することを目的に設立されたアメリカの非営利団体です。会員は、科学研究における卓越した業績に基づいて選出されます。 2025年4月29日に米国科学アカデミーは、独創的な研究において顕著かつ継続的な功績を残した会員120名と国際会員30名の選出を発表しました。
また、「瑞宝中綬章」も受章されました。
瑞宝中綬章は、公共的な職務において重要と認められる職務をはたし成績を挙げられた方に授与されます。伝達式は5月21日に行われます。
研究業績の概要
細胞膜上にはGPIと呼ばれる糖脂質によって膜に係留(アンカー)される「GPIアンカー型タンパク質」という膜タンパク質が150種以上発現し、様々な生理機能に重要な役割を果たします。木下先生は、これまでにGPIアンカー型タンパク質の生合成や修飾に関わる多くの遺伝子を同定するとともに、GPIアンカーを切断する酵素を同定し、GPIアンカー型タンパク質がアンカー部位で切断されて膜から遊離し、離れた場所で機能し得ることを明らかにしてこられました。GPIアンカーが正しい構造で、かつ細胞に必要な量が生合成されないと、GPI欠損症と呼ばれる病気を発症しますが、木下先生は発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)という血液の疾患が、GPIアンカー合成酵素PIGAの後天的変異が原因で起こることを発見されました。さらに、GPIアンカーの合成遺伝子の遺伝的異常による先天性GPI欠損症の存在を世界に先駆けて報告されました。現在、GPI欠損症の発症機序や診断基準の制定、治療法の解明を目指して研究を展開されています。
主要論文
- Wang, Y., A. K. Menon, Y. Maki, Y.-S. Liu, Y. Iwasaki, M. Fujita, P. A. Guerrero, D. Varo?n Silva, P. H. Seeberger, Y. Murakami and T. Kinoshita. 2022. Genome-wide CRISPR screen reveals CLPTM1L as a lipid scramblase required for efficient glycosylphosphatidylinositol biosynthesis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 119(14): e2115083119.
- Wang, Y., Y. Maeda, Y.-S. Liu, Y. Takada, A. Ninomiya, T. Hirata, M. Fujita, Y. Murakami and T. Kinoshita. 2020. Cross-talks of glycosylphosphatidylinositol biosynthesis with glycosphingolipid biosynthesis and ER-associated degradation. Nat. Commun., 11:860.
- Kobayashi, A., T. Hirata, T. Nishikaze, A. Ninomiya, Y. Maki, Y. Takada, T. Kitamoto and T. Kinoshita. 2020. ?2, 3-linkage of sialic acid to a GPI-anchor and an unpredicted GPI attachment site in human prion protein. J. Biol. Chem., 295(22):7789-7798.
- Hoechsmann, B., Y. Murakami, M. Osato, A. Knaus, M. Kawamoto, N. Inoue, T. Hirata, S. Murata, M. Anliker, T. Eggerman, M. Jaeger, R. Floettmann, A. Hoellein, S. Murase, Y. Ueda, J. Nishimura, Y. Kanakura, N. Kohara, H. Schrezenmeier+, P. M. Krawitz+ and T. Kinoshita+. 2019. Complement and inflammasome overactivation mediates paroxysmal nocturnal hemoglobinuria with autoinflammation. J. Clin. Invest., 129(12):5123-5136.
- Hirata, T., S. K. Mishra, S. Nakamura, K. Saito, D. Motooka, Y. Takada, N. Kanzawa, Y. Murakami, Y. Maeda, M. Fujita, Y. Yamaguchi and T. Kinoshita. 2018. Identification of a Golgi GPI-N-acetylgalactosamine transferase with tandem transmembrane regions in the catalytic domain. Nat. Commun., 9:405.
- Yi-Shi Liu,Yicheng Wang,Xiaoman Zhou,Linpei Zhang,Ganglong Yang,Xiao-Dong Gax,Yoshiko Murakami,Morihisa Fujita,Taroh Kinoshita.Accumulated precursors of specific GPI-anchored proteins upregulate GPI biosynthesis with ARV1.J Cell Biol. 2023 May 1;222(5):e202208159.

木下 タロウ特任教授のコメント
この度、瑞宝中綬章の受章とアメリカ科学アカデミーの外国人会員への選出が重なり、まさに望外の喜びです。どちらも研究キャリア全体に対して与えられるので、国内外で評価していただけたことが大変有り難く、また非常に光栄に感じています。私は、自然免疫に働く補体が病原微生物など広く外来の異物を攻撃するにも関わらず、体の細胞を傷つけない識別機構に興味を持ち長く研究を続けてきました。その識別を担う補体制御タンパク質がGPIアンカーという糖脂質によって細胞膜に結合していたことから、GPIアンカーの生合成経路の解明に取り組み、関わる20数遺伝子をクローニングし全体像を明らかにすることができました。そして、識別が破綻して自己赤血球が補体で破壊される血液難病である発作性夜間ヘモグロビン尿症の原因遺伝子を発見するなどの成果を上げることができました。GPIアンカーにこだわり研究を続けたことが今回の栄誉につながり、継続の大切さを再確認した次第です。