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大阪大学

4種類のワクチンの比較
ーワクチンによって誘導される免疫応答に違いはある?ー

ファイザー、モデルナ、J&J、ノババックス社製のワクチンが誘導する免疫応答が詳細に解析されました


これまでファイザー製(mRNAワクチン)、モデルナ製(mRNAワクチン)、アストラゼネカ製(ウイルスベクターワクチン)のワクチンが薬事承認されていましたが、4月19日に新たにアメリカノババックス製の新型コロナワクチンが薬事承認されました。ノババックス製のワクチンは、組み換えタンパクワクチンと呼ばれるタイプのもので、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を投与する従来型のワクチンです。組み換えタンパクワクチンは、B型肝炎、破傷風などで用いられており、安全性が高く、副反応も少ないとされています。mRNAワクチンではアレルギーや強い副反応が起きる人などへの接種が想定されています。

 

これらの異なるワクチンには感染防御効果に違いがあるのか気になるところですが、最近アメリカのラホヤ免疫研究所のグループからファイザー製、モデルナ製、J&J(ジョンソンエンドジョンソン)製、そしてノババックス製ワクチン(表1)が誘導する免疫応答を解析した論文が発表されました(文献1)。これはまだ査読前論文ではありますが、この分野を牽引する研究グループからの発表ということもあり、科学雑誌Natureでもニュースとして取り上げられるなど既に反響を呼んでいます(https://www.nature.com/articles/d41586-022-00885-y)。

 

表1 比較した新型コロナワクチン

 

これまでも新型コロナワクチンの比較をした研究はありましたが、その多くは異なる研究グループから出されたデータを比較したものでした。研究室によって解析の手技手法が微妙に異なることも多く、データの直接的な比較は簡単ではありません。今回の論文では、ワクチン接種者から集められた多量のサンプル(血液)の処理、保存、そして解析まで全てが同じグループで同じ方法によってなされたことによって、データの直接的な比較に信頼がおけます。

 

今回この研究グループは、感染防御に重要な記憶免疫の4つのパラメーター(文献2)として、中和抗体、記憶ヘルパーT細胞、記憶キラーT細胞、そして記憶B細胞について、ワクチン接種前、初回接種後、二回接種後、長期に渡り追跡調査を行いました。その結果を(表2)にまとめました。中和抗体価はモデルナ≒ファイザー≒ノババックス>J&Jという順でした。記憶ヘルパーT細胞応答の強さは、モデルナ>ファイザー≒ノババックス>J&J、記憶キラーT細胞応答の強さは、モデルナ≒ファイザー≒J&J>ノババックス、そして記憶B細胞応答の強さは、モデルナ≒ファイザー>J&J>ノババックス、の順でした。

 

表2 免疫応答の強さ

 

この論文により、各ワクチンの性質が浮かびあがってきました。まずモデルナ、ファイザー製のmRNAワクチンは調べた全ての応答を強く誘導していました。記憶T細胞、記憶B細胞が長期間維持される一方、中和抗体は減少しやすいことがわかりました。J&J製のウイルスベクターワクチンの誘導する免疫応答(の程度)は弱いですが、抗体、記憶T細胞、B細胞応答は比較的持続するようです。ノババックス製のワクチンは、mRNAワクチンと遜色ない程度の抗体、記憶B細胞応答を誘導した一方で、記憶キラーT細胞応答が弱いという結果が得られました。しかしモデルナ、ファイザー、J&J製ワクチンに比較して、ノババックス製ワクチン接種検体が少ない、という問題があることも指摘しておきます。

 

この研究はワクチンで誘導される多くの免疫学的パラメーターについて包括的に評価した重要なものです。各ワクチンの性質を明らかにすることによって、病原体に応じてワクチンのタイプを使い分けることなどが可能になるかもしれません。


参考文献

1)Zhang Z et al. preprint
2)Sette A and Crotty S (2021) Cell