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大阪大学

行動経済学ユニットによる
「風しんの抗体検査・ワクチンの広報動画をつくろう!」
ワークショップが開催されました!

8月28日(日)、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)の『行動経済学ユニット』によるワークショップ「行動経済学のナッジを活用した効果的な広報・普及啓発について考えてみよう~風しんの抗体検査受検とワクチン接種の勧奨を題材に~」が開催されました。

 

 

CiDER 行動経済学ユニットの大竹文雄特任教授・佐々木周作特任准教授らは、現在、43歳~60歳の壮年期男性の風しんの抗体検査受検・ワクチン接種を勧奨するための広報動画を制作準備中です。本ワークショップでは、この動画を題材に、より市民の目を引き、行動変容を促すことできる広報や普及啓発の方法について参加者のみなさんと一緒に考えました。

 

オンラインで、約40名の保健福祉医療職や自治体の広報担当者、大学教員、学生などが参加した当日の様子を、ライターの新原なりかがレポートします。

 

「思い込み」の解消がキー

はじめに、「壮年期男性に対する風しんの抗体検査受検・ワクチン接種の勧奨が必要となっている理由」や、これまでの研究成果・実際に行ってきた施策などの背景情報について、佐々木先生から説明がありました。

 

 

佐々木先生のプレゼンより(スライド内の年齢は2018年度のもの)

 

2022年度時点で43歳~60歳の男性は、子どもの頃に風しんワクチンの公的接種の対象となっておらず、また自然感染した人も少ないので、風しんの抗体保有率が女性や他の年齢層と比べて低くなっています。日本が風しんに対する集団免疫を獲得するためには、この年代の男性が風しんの抗体検査を受け、抗体を持っていないことがわかった場合はワクチン接種を受けることが必要です。そのため、厚生労働省は、2019年度から対象者に、抗体検査とワクチン接種を無料で受けられるクーポン券を送付しています。

 

しかし、クーポン券の利用率はなかなか上がらず、ワクチンの接種件数も目標には届いていません。そこで、大竹先生・佐々木先生らの研究チームは、行動経済学の知見をもとに広報や普及啓発の効果的な方法を検証してきました。

 

佐々木先生のプレゼンより

 

 

2019年度の研究では、「自分がきっかけで、周りの妊娠中の女性が風しんに感染した場合、胎児の健康に大きな影響を与える可能性がある」ことを伝えるメッセージが非常に効果的だということが分かりました。この結果を踏まえてポスターが作成され、全国の自治体などに送られました。しかし、新型コロナウイルスの影響などもあり、現在もまだワクチンの接種件数は目標に届いていません。

 

2022年度に入って、研究チームではさらなる研究を進めています。その結果、「子どもの頃に風しんのワクチン接種を受けた」や「風しんにかかったことがある」と勘違いしていることで、クーポン券を受け取っても、抗体検査を受ける必要がないと考える人が多くいる可能性が浮かび上がってきました。現在、この「思い込み」を解消するメッセージを盛り込んだ広報動画を制作しています。

 

佐々木先生のプレゼンより

 

今回のワークショップは、制作準備中の動画がより多くの人びとに届き、抗体検査受検・ワクチン接種につながるように、保健所や自治体で働く現場の方々と一緒に、動画の内容や展開の仕方について考えるために開かれました。

 

自治体での動画活用は、まだ発展途上

次に、これまで地方自治体で行われてきた風しんの抗体検査受検・ワクチン接種などの広報施策について、実際に自治体に勤務されているお二人にご紹介いただきました。

 

Rさん

「主にウェブサイトや広報誌で、風しんの広報を行ってきました。広報誌には、クーポン券の有効期限が近づいたタイミングで改めてお知らせを載せています。また、保健所で発行している健康情報をまとめた冊子でクーポン券を配布していることや有効期限について紹介したり、市内の医療機関にポスターを掲示してもらったりしています。」

 

Aさん

「私の自治体では、風しん以外のトピックを含めても、動画を活用した事例はチラシなどに比べるとまだまだ少ないです。

これまでに制作した動画は、市の公式YouTubeチャンネルにストックされていますが、それほど多くは見ていただけていないという現状です。その他のチャネルに、本庁舎のロビーやケーブルテレビ、提携企業の事業所での放映などがあります。また、地方紙のデジタル版に動画のリンクを貼っていただいたこともあります。他の自治体では、渋谷の大型モニターでプロモーション動画を放映した事例もあるようです。

動画のリンクは市のTwitterでも投稿しています。市のアカウントだけでは限界があるのですが、著名人の方にリツイートしていただいたことで多くの方の目に入ったという事例もありました。」

 

どんな動画なら見てもらえる?使ってもらえる?

前提情報が確認できたところで、次は今回のワークショップのメインであるグループワーク。全体を6つのグループに分け、参加者どうしで意見を出し合いました。

 

一回目のグループワークのテーマは、「自治体・保健所での動画を使った広報・普及啓発」。動画を広報に活用した具体例や、動画を効果的に活用するための工夫について話し合いました。下記は、参加者のみなさんが発表してくださった意見の一部です。

 

動画を広報に活用したこれまでの事例について

  • ホームページやYouTubeチャンネルに掲載しているだけでは、誰も見ない。
  • LINEのプッシュ通知を活用して、動画のリンクを地域住民に送信している。
  • LINEの登録をお願いする機会として、必ず対面で会うことのできる乳幼児健診を利用している。
  • 映画館で本編の上映前にプロモーション動画を放映している。
  • 過去に制作した動画の再生回数は数十回~数万回とバラバラ。有名人の出演している動画の再生回数はやはり多い。

 

動画を効果的に活用するためのアイデア

  • 新型コロナウイルス関連情報は自分から見にいく人が多いので、そのついでに一緒に目に入るような仕組みを作る。ワクチン接種会場で、接種後の待機時間中に見てもらうなど。
  • 対象者は働いている世代なので、通勤途中で目にする駅や電車内のモニターで放映する。
  • PTA会合を通して対象者の配偶者にアプローチしたり、大学生協を通して対象者の子ども世代にアプローチしたりする。
  • 健康診断の際に抗体検査を受けてもらえるように、企業とタイアップする。
  • 対象者となる年代の男性が多くいる場所として、競輪・ボートレース会場で流す。

 

ここで、二回目のグループワークに入る前に、参考用に仮制作した動画をみなさんと鑑賞しました。動画制作を担当する制作会社のディレクターから、制作の方向性についてのご紹介もいただきました。

 

 

 

仮制作した参考動画より

 

その後、二回目のグループワークを実施。「魅力的で、現場で使ってもらえる勧奨動画を作るためのアイデア」をテーマに話し合い、下記のような意見が出てきました。

 

どんな動画なら見てもらえる?使ってもらえる?

  • 他人に紹介したくなるような動画になるといい。例えば、対象者の配偶者や子どもなどが、対象者本人に教えたくなるような動画。
  • なるべく短い方がよい。1分でも長いと感じるのではないか。
  • 全部見なくてもわかるもの、通りすがりに目を引くものがよい。
  • 動画の最後で、どうしたら抗体検査を受検できるのかなど、次のアクションまで示した方がよい。
  • 真面目なもの、コミカルなものなど、数パターン用意してはどうか。

 

グループワークでは、保健所で働かれている方、自治体の広報を担当されている方、対象者の子の世代にあたる学生さんなど、それぞれの立場ならではのハッとするような意見が多数交わされていました。これらの意見を取り入れることで、より「見てもらえる・使ってもらえる」動画に近づきそうだと、みなさんのお話を聞きながら期待が高まりました。

 

ワークショップを振り返って

最後に、CiDER 行動経済学ユニットの大竹先生と佐々木先生のそれぞれより、ワークショップの感想や今後の課題についてのお話がありました。

 

 

大竹文雄 特任教授

 

大竹先生「様々な角度からご意見を頂けて、大変ありがたかったです。みなさんのお話を聞いていて、口コミで人から人へと伝わりやすい、話題にしやすい動画にすることが大事なのかなと感じました。今後も、職場の方々と『こんな動画だったら、うちでも使えそう』というお話が出ましたら、いつでも気軽に教えていただければと思います。」

 

 

佐々木周作 特任准教授

 

佐々木先生「どのグループでも活発に意見が交わされて、大変ありがたく思っております。ひとつだけ、今回のワークショップを通して難しいなと思ったことは、SNSや口コミの輪から外れてしまうような人に、どうやって伝えていけばいいのかということです。配偶者やお子さんもいらっしゃらず、ひとりで暮らしている方などには、どうアプローチしていけばいいか。対象者の属性の違いごとに広報のやり方を考えていかないといけないな、と思いました。

 

CiDER・行動経済学ユニットでは、今回のワークショップで挙がった意見をもとに、動画の内容や展開方法を改めて検討していきます。今後、動画が出来上がったタイミングで、またみなさんに見ていただく機会も設ける予定とのこと。今回参加できなかった方も含め、またぜひご協力をお願いいたします!

 

【ライター、編集者】
新原 なりか

 

私自身は、このワークショップに参加するまで、風しんについてほとんど知りませんでした。特に今は、新型コロナウイルスの流行により、他の感染症に対する情報が入ってきにくくなっているような気もします。だからこそ、行動経済学のアプローチや、現場の方々の声などを取り入れ、より「届きやすい」動画を工夫して作ることはとても重要だと感じました。動画が完成したら、私も身近な人たちに紹介したいと思います。