阪大発
感染症情報サイト

大阪大学

【CiDERシンポジウム】参加者からの質問
〈社会・経済における影響編〉

質問1)コロナウイルス感染症禍で感染症以外に生じた影響にはどのようなものがあるのでしょうか?また精神健康やその他の健康、暮らし全般への影響にはどのようなものがあるのでしょうか?

【行動経済学】
大竹 文雄

 

経済、社会についての影響についてです。

 

 

日本のGDPは、第一波の時に緊急事態宣言のこともあり、だいたい1割減少しました。これはG7の中では、アメリカと同じくらいで、他の国のほうがより大きく減少しました。その後、日本のGDPも2020年9月にはかなり回復をしたのですが、そこからはずっと横ばいの状況で、2022年5月の時点でもコロナ前の水準に届いていません。しかし、日本以外のG7諸国は、既にコロナ前の状況を上回っています。

特に大きな影響を受けたのは「飲食・宿泊業」で、コロナ前の水準に比べて、平均的に3割くらい活動水準が減少しています。

社会的にも大きな影響があったのは「婚姻件数」で、人口減少に伴いだんだんと減少しているのですが、そのトレンド線よりも15万件くらい減少しています。

婚姻件数減少に伴い、「出生数」は、予想線よりも25万人くらい減少する見込みです。回復する可能性もあるのですが、(感染初期から)3~4年経ってますから、全ては回復しないと思われ、かなり子供の数は減少することがわかっています。

「自殺」は、いろいろな要因を制御しても、自殺者数はだいたい8,000人くらい増加したと言われています。中でも20代が多いと言われています。

「子供の肥満・学力」は、緊急事態宣言の休校があったため、肥満が増加し、学力が低下したという研究があります。

 

 

【哲学】
村上 靖彦

 

もともと感染症は社会的弱者に負担がかかると言われています。

日本では統計がとられていないと思うのですが、経済的な格差と死亡率の関係はおそらくあると思います。ニューヨークなどでは、格差のある地域と感染率の相関を示すデータがありましたので、今後日本でも調査をする必要があるのではないかと思います。

コロナに感染しなくても、コロナの影響を受けた人はたくさんいて、私は貧困の厳しい地域で調査をしているのですが、ある子ども食堂は学校が一斉休校になったときに、あえて週6日開催していました。給食でしか栄養が取れない子どもたちがいるからです。そのような地域は、日本でも各地であったのではないかと思います。またこの地域では、非正規雇用の労働をされている方が多く、すぐに仕事を失っていました。このような形で感染症というのは、社会的弱者に強く影響が出ることは、大きな問題だと思います。

 

 

自死については、去年や一昨年は、小・中学生の自死が非常に多くなっています(上記 文部科学省の資料)。今回の感染症で、虐待などの問題が深刻化し、子どもの逃げ場がなくなったからだと思われます。

 

 

小・中学生の長期欠席者も増加しましたが、いじめは減少しました。学校自体は、安全な場所でも子どもの権利が守られる場所というわけでもありません。また、学校にいかないことそのものが悪いわけでもありません。

 

質問2)経済活動との両立はどのようにすればよいのでしょうか?全数把握の問題、2類や5類のそれぞれのメリット、デメリットとあわせて教えてください。

【行動経済学】
大竹 文雄

 

 

経済活動との両立ができれば一番よいのですが、感染対策を完全にするためには、感染は人との接触で発生するわけですから、接触を閉じるしかない。社会経済活動で、人との接触をゼロにするわけにはいかない。ですので、単純に両立することはできない。

すでに収束したと判断した国もありますが、日本はまだ判断していないということで、重症化率が高ければ感染対策に重点をおくことは自然なことであり、低ければ特別な行動制限はしない(インフルエンザと同じ)という、私たちの価値観に依存すると思います。

コロナ感染者の〈全数把握〉をする目的は、一つは感染状況を把握するために全感染者の把握をするということなのですが、こちらは統計調査のように定点でいくつかの代表的なところで調べていき、全国で何人であると推測をすることに代替することはできます。もう一つの目的は、危険な感染症なので感染者は移動してはいけない(入院もしくは自宅で完全に隔離をする)こととし、病状の管理を行うことですが、こちらは重症化率が非常に低くなってくるとどこまで重要なのかということです。感染者の把握は一部の方だけでいいのではないか、というのが今の政府の動きであると理解しています。

コロナは〈2類相当〉の感染症か、〈5類相当〉の感染症かということについては、〈2類相当〉は危険度が高い感染症で、感染拡大を防がなければならず、保健所が管理し、感染者や濃厚接触者の行動制限をする(隔離する)のが原則の病気であるため、入院もしくは宿泊療養する際に公費を負担してでも行うことになります。対して、〈5類相当〉は、感染者に対して保健所が公的な形で行動制限はしない、感染者は自主的に感染対策を行うことになり、治療費は通常の医療と同様に個人で負担を行うことになります。どういうリスクのある感染症なのかということを、私たちはどう判断するのかによって、変わります。だんだん〈5類相当〉でいいのではないかというのが政府の動きではありますが、急激な動きはないという状況だと思います。

もし〈5類相当〉となった際に懸念されることとして、治療費の個人負担のことがありますが、コロナに感染した際に使用される〈経口治療薬〉は高額なため、他の医療と同じく個人負担するのか、もしくは政府が公費を負担するのかということを検討することは十分考えられると思います。また個人負担にはそもそも上限があるため、その枠組みにするという判断もあると思います。

 

質問3)さまざまな感染症とともに生きていくうえで、私たちはどのように心構えをすればよいでしょうか?

【感染症専門医】
忽那 賢志

 

感染症のリテラシーを高めることが大事です。

新型コロナではデマや不確かな情報が拡散されました。こうした情報の真偽を正しく判断できるリテラシーを、すべての人が持つようになることが理想と考えます。

 

 

【哲学】
村上 靖彦

 

誰も責めないことが大切です。

パンデミック初期にスケープゴート(外国人、感染者、医療者への嫌がらせ)が次々に作られたことがあり、誰も責めないことが大切です。
社会的に弱い立場に置かれた人(障害者、高齢者、外国籍の人、etc.)を排除しないことが大切です。

パンデミック初期のクラスターの多くは、障害者施設、精神科病院、高齢者施設で起きていました。これらは、日本が進めてきた弱者の排除、隔離政策という負の歴史を反映しています。
また困難を抱えた人ほど、いろいろなサービスにアクセスしにくい(自分で病院に行きにくい、行政のサービスの情報が届かない等)ということもあり、その方たちにきちんとサービスが受けれるように、社会全体としてわかりやすく伝えるだけでなく、積極的にアウトリーチしていくことが大切です。