阪大発
感染症情報サイト

大阪大学

【CiDERシンポジウム】参加者からの質問
〈ウイルス編〉

質問1)感染症でも新型コロナウイルスであれば主な症状は咳、別のウイルスになればまた症状が変わり、症状が出る場所も変わってきますが、主な症状が似た感染症であればウイルスや病原体の構造に共通点などがあるのでしょうか?また感染方法によって構造が変わったりすることはあるのでしょうか?

【ウイルス学】
小野 慎子

 

ウイルスはいろんな形を持っているのですが、例えば「呼吸器」に感染するものとして、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスは、同じ「呼吸器」の細胞に感染するのですが、細胞の表面にあるタンパク質が異なります。ウイルスが細胞に感染するときには、細胞表面にある受容体に結合しないといけませんが、「肝臓」に感染するウイルスは「肝臓」の細胞にしか持っていない受容体としか結合しませんし、「呼吸器」に感染するウイルスは「呼吸器」の細胞にしか持っていない受容体にしか結合しません。ウイルスの形状によって結合する受容体が異なるため(組織特異性)、感染する場所や症状が異なります。

 

質問2)天然痘は人類が唯一撲滅できた病原体ですが、それ以外の感染症がワクチンなどがあるにも関わらずまだなくならないのはなぜなのでしょうか?またなくなりやすい菌(撲滅できやすい病原体?)の特徴などはあるのでしょうか?

【免疫学】
伊勢 渉

 

以下の3つの条件を満たす感染症は、理論的には撲滅可能だと思います。
1)無症状感染が少ない(感染すると明確な症状が出る)
2)ヒト以外に感染しない
3)有効性の高いワクチンがある
天然痘以外にも、ポリオ(小児まひ)や麻疹(はしか)は理論的には撲滅可能と考えられます。

一方で、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザは上の条件を満たさないことに加えて、ウイルスに高頻度に生じる変異の問題、またワクチンの保存条件(例えば新型コロナウイルスワクチンは低温で保存しなければならず、全ての国にワクチンを届けることが難しい)などもあり、撲滅は困難です。

 

質問3)新型コロナウイルスは終息するのでしょうか?また終息するならいつ頃になるのでしょうか?

【免疫学】
伊勢 渉

 

「終息」=すっかり終わること。絶えること。終結すること。

「収束」=おさまりがつくこと。しめくくりをつけること。収拾。

新型コロナウイルスが「終息」することはないと思います。ただ、今の日本の状態というのは、感染者が増え、ワクチン接種も進み、集団免疫ができつつある状態にあります。いずれは風邪の原因ウイルスのように穏やかなウイルスとして定着するのではないかと思います。

一方、「収束」したかどうかを決めるのは社会(私達)だと思います。これから議論をして、何をもって「収束」するのかということを考えていかないといけないと思います。海外では、既にマスクをしない、検査もしないという選択をした(=収束した)国もありますので、そういう国は「収束」したと判断したのではないかと私は理解しています。

 

 

【ウイルス学】
小野 慎子

 

「終息」はしない(完全にはなくならない)と思っています。

今回の新型コロナウイルスも、2003年に流行しましたSARSコロナウィルスと80%程度ウイルスのゲノムと相当性を持っていまして、2003年のSARSコロナウィルスも約20年前に出現しておさまったのですが、今回のように、非常によく似た新型コロナウイルスとして流行したことを考えますと、特にRNAウイルスにおいては、形を変えながら存在し続けるのかなと思います。

 

 

【自然科学】
池田 陽一

 

感染者をゼロにするのは不可能だと考えられます。

RNAウイルスは変異を続けます。これまでの7波まで、全て異なるウイルス株により引き起こされており、少しずつ変化しながら人々の中に入ってきています。風邪の原因となるコロナウイルスは4種類あり、どれかと置き換わるか、仲間入りするか、どちらかだと考えられます。

ただし、オミクロン株の出現以降、重症化率は低くなりました。

 

 

これらの数値を見ながら、これからどういう対策が必要なのかを考えていく必要があるかと思います。

 

質問4)終息した後も、別のウイルス等の病原性微生物のパンデミック(大流行)は起きるのでしょうか?

【免疫学】
伊勢 渉

 

 

新型のインフルエンザウイルスが誕生したり、今は普通の風邪を引き起こすウイルスの仲間が変異して、パンデミック(大流行)が起きる可能性は十分にあります。

「平時」に基礎ウイルス、免疫、感染症研究をしっかりと行い、ワクチンをいつでも作れるようにしておくことが大事だと思います。